賞罰の権力、つまりモロフは自分のすべての過ちを隠し、今後も自分を彼の傍に置くことが出来る――彼が一度宣言したように。しかし仁春がその次思いついたのはもっと重たい現実。セレスト・フレドン。ボゴーイルとイズミンの決裂。そしてモロフの家庭。
「本当に…いいのか?」
モロフは平静に上から見下ろす。
「あの…おれたち、本当にこれで?…お前、いつか結婚したく――」
「んなことはない。」疑う余地のない口調。「おれみたいな人間が、妻と子供を持って幸せになると思うか?それともお前が結婚して家業を継ぎたい?」
「そんな…おれはもう…」
おれはもう、お前だけのために生きると約束したのだ。家業なんて関わりのない話しだろう。そう弁解しようと慌て出す仁春に寄り添い、モロフは今度首筋下から攻め入り、鎖骨のくぼを軽くなめる。思わずあっと声を上げたら、仁春は自分でもびっくりして口をつぐむ。手を収める気配の見られないモロフは続いて半身で仁春を覆い、左膝を彼の股間に押し当てる。
「モロフ――!」
「問題ない。」彼はそっけなく返事する。「ドアはしっかり閉めた。誰にも聞こえない。」
「そうじゃなくて!お前――」
「どうせお前体力たまりすぎてんだろ?」そう言いながらモロフはまた怒り始める。「ちょうどおれもだ。毎日お前を見ていて、好きで何もやらないでいるとでも思ってんの?」
そして仁春の寝巻きのボタンをはずす。思わず力入れて彼を押そうとしたら傷口が痛くて、仁春は顔をゆがめた。隙間を狙ってモロフは頭を彼の胸に下げ、傷口の周りの肌に口付ける。くすぐったい触感に全身鳥肌が立ち、傷の収縮感よりはるかに悩ませられた仁春は頭をそらし、湧き上がる刺激にめまいを感じた。
「でもお前…なんでこんなことが…知って…」
「これくらいお前も知ってるんだろう。」モロフは耳元で答える。「次はどうすればいいか、おれはお前と同じ未経験。――けど何がしたいかは、ちゃんとわかってる。」
「…」
髪の毛がくすぐったく、仁春は首を軽くねじる。「ランプを消してくれないか?」
簡単に断られる。「いやだ。やっと今日お前の顔が見られるんだからな。」
そういえば確かに。二人とも二十八、九歳の大の男で、セックスの経験も欠かないし、新婚初夜みたいに恥ずかしがることなどない。――が、同性という意味では互いに疑問なく初体験で、さらにこんな時に限って、自分の上で寝巻きのスラックスをはずしている男は、十五歳の時コシー士官学校に入って以来、十三年間心が通う友だということを、仁春が過剰に意識してしまう。
「――やっぱり、やめとこう、モロフ――」
「黙れ。」
「うっ」
乳首が口に含まれたとたん半身がしびれ、仁春は弾みあがって、そして簡単に元の位置に押さえ戻される。モロフの全身が自分に重なり、両足も開かれ、そして――
「…」
真っ赤になって仁春は彼をにらむ。不満そうにモロフは聞き返す。
「何だ?」
「…なんでお前そんなに…早いの…?」
「お前が言うか?」
らしく我侭を貫き、モロフの手がそっとスラックスの下へと滑り込み、仁春の変化の起こった部分に握りつく。これで初めて自分が勃起したことに気づく仁春はまた一段赤くなり、両足を必死に揃え真ん中を隠そうとしたら、モロフの下半身を挟むようなカッコウになるだけで。女みたいな自分を想像すること自体がたまらなく、仁春は無駄に男を押しながら言う。
「何でおれが下なんだよ?!」
「上にいたいか?」とぼけるモロフ。「おれは別にいいんだが。変わるか?」
「…」
「お前、いつもそうだ。」
モロフは体を上げ、自分の上着とベルトをはずしてズボンを下ろす。明らかに大きくなった性徴を見たとたん頭の中がぐるぐる騒ぎ出した仁春は、すぐ目をつぶって顔を隣にねじる。
「――わかっていてきれいごとで説教するのが趣味なんだな。」モロフは彼のあごをつかんで無情に自分へ向ける。「なんなんだ、今のは?おれを見たくないとでも?」
「…」
「女とは寝といて、おれはだめだってんか?いまさら後悔したっていうのか?」
びびっていながら目を開けたら、彼の顔が間近にあった。やはり表情が怖い。いつよりも険しい。鋭いつやのついた茶色の瞳から、高温を帯びている焦りが放たれ、まっすぐ仁春の目を刺す。思わず仁春は動ける片手を上げ、ブロンド髪の男の首筋に抱きつく。
舌先が口中で絡み合い、喉にまで至り、吐息と熱度が伝わってくる。モロフのたくましい胸元と腹筋が自分のに強くくっついて、快感がシーツから体内に集まってくるかのように仁春はぞっと震える。ゆっくり肩、腕と胸を触られ、モロフの舐めと噛みを感じるたび、仁春が一倍の努力で声を抑えざるを得ない。が、快感はそれでとめられたものではなく、やがて彼の目が濡れた。
「…そんなにいいか?」
幸い嘲笑を帯びていない声が耳元で要求する。「叫んで。おれに声を聞かせろ。」
「いやだ…」
軽く頭を横に振ると涙がこぼれてしまい、仁春は自分に対して不満を感じた。首筋あたりにモロフが吸い付いてくると、痕がつくのが心配で仁春は避けながら口ごもって抗議する。
「見られてしま――」
「上等だ。」
不機嫌さが男の顔に戻る。「やっぱりおれと論争するつもりだな?確かに聖書は同性への欲情を禁じてる。でもウッシェルのシャードへの愛が歌われ、二人の間伝経者ケイウォが生まれて人間同士の愛と肉体関係が認められた。おれは、同性に欲情を発散させる趣味はないし、第一、別に厳重な肉慾を抱いてるとは思わない。ただおれはお前を愛してるから、彼らが愛し合うように、だからお前を抱きたいと思うだけだ――まだ異議があるか?」
「…」
途中のところから仁春が顔を覆っていた。モロフには逆らえないことはずっと昔から知っていたのだ。その率直すぎて衝撃さえもたらす告白を、未だに受け入れきれずにいるけど、少なくとも一つが明白だ:彼は、自分を抱きたい。この決定事項は逆らえない。
「あるとしても、おれはもうとめられない――同じ男だったらお前もわかるはずだろ。それに、」
再び彼が突如、仁春の股間の大事な部位に触り、後者はつい我慢しきれず声を上げる。満足そうにモロフが笑みを浮かべ、また彼に重なって立った性器をさすり合わせ、低い声で事実を告げる。
「――お前も、ほしいんだろ?」
「…もうわかったから。」危険な先端が容赦なく掴まれて撫でられ、仁春は眉をねじって涙を浮かべる。「好きにしろ。」
「そうさせてもらうつもりだが。」
話している間自分がすでに窮地に陥っていることに仁春が気づく。思い出すだけで顔が熱くなる、昔のセックスと自慰の経験では、こんなに早く絶頂に近づくことはなかったのに。モロフの触感が電源のように体温を高めていく一方で、体が勝手に揺れ動き彼にすがり付こうとする。仁春も手を上げて彼に触り、硬くなった分身を触られればモロフが眉をしかめ、深く息を吸って仁春に口付ける。
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